出産を控え、「さい帯血保管」を勧められたものの、本当に必要なのか分からず悩んでいませんか?将来の病気に備えられるというメリットは魅力的ですが、高額な費用がかかるため、決断できずにいる方も多いでしょう。この記事では、そもそも「さい帯(へその緒)」とは何かという基礎知識から、さい帯血保管のメリット・デメリット、公的バンクと民間バンクの具体的な違い、費用や手続きの流れまで、後悔しない選択をするために知っておくべき情報を網羅的に解説します。結論として、さい帯血保管はご家庭の価値観や状況によって必要性が異なります。この記事を読めば、ご自身にとって最善の選択は何かを判断するための、客観的な知識がすべて手に入ります。
そもそも「さい帯(へその緒)」とは?赤ちゃんとママをつなぐ大切な命綱
妊娠中、お腹の赤ちゃんとママをつないでいる「さい帯」。一般的には「へその緒」という呼び名でおなじみですね。このさい帯は、赤ちゃんがママのお腹の中で健やかに成長するために欠かせない、まさに「命綱」と呼べるほど重要な器官です。まずは、この神秘的で大切なさい帯の基本について、詳しく見ていきましょう。
さい帯の構造と役割
さい帯は、白く弾力のある半透明の管で、その長さや太さには個人差がありますが、平均すると長さ約50〜60cm、太さ約2cmほどです。一見するとただの紐のように見えますが、その内部は非常に精巧な構造になっています。
さい帯の中には、以下の3本の血管が通っています。
- 1本の臍帯静脈(さいたいじょうみゃく)
- 2本の臍帯動脈(さいたいどうみゃく)
これらの大切な血管は、「ワルトン膠質(こうしつ)」と呼ばれるゼリー状の物質によって、外部の圧迫やねじれから守られています。この構造によって、赤ちゃんは羊水の中で自由に動き回っても、血液の流れが滞ることはありません。
そして、それぞれの血管が担う役割は、酸素や栄養を届け、老廃物を運び出すという、赤ちゃんにとって不可欠なパイプライン機能です。具体的には、次のような役割分担がされています。
| 血管の種類 | 役割 | 血液の流れ |
|---|---|---|
| 臍帯静脈(1本) | 胎盤から赤ちゃんへ酸素と栄養を運ぶ | ママ → 赤ちゃん |
| 臍帯動脈(2本) | 赤ちゃんから胎盤へ二酸化炭素と老廃物を返す | 赤ちゃん → ママ |
このように、さい帯は胎盤を介してママと赤ちゃんを結び、妊娠期間中ずっと、休むことなく生命維持に必要な物質交換を行っているのです。
出産後のさい帯はどうなるの?
赤ちゃんが誕生し、元気な産声をあげて自発呼吸を始めると、さい帯はその役目を終えます。出産後、医師や助産師がさい帯を専用のクリップで2か所留め、その間をハサミで切断します。これを「さい帯結紮(けっさつ)・切断」と呼びます。
赤ちゃんのおへそ側には、数cmほど切断されたさい帯が残ります。これは「臍帯断端(さいたいだんたん)」と呼ばれ、生後しばらくはクリップがついたままの状態です。この残ったさい帯は、生後1〜2週間ほどかけて自然に乾燥し、ミイラのように黒っぽく硬くなり、最終的にはポロっと取れます。これが取れることで、赤ちゃんのおへそが完成します。
取れたさい帯、つまり「へその緒」は、赤ちゃんがママと繋がっていた証として、桐の箱などに入れて大切に保管するご家庭がほとんどです。出産という大仕事を終えたママと、生まれてきてくれた赤ちゃんとの絆の象徴として、かけがえのない記念品となるでしょう。
さい帯血とは?その価値と医療における可能性
「さい帯血」とは、出産時に赤ちゃんとママをつないでいた「さい帯(へその緒)」と、胎盤の中に含まれている血液のことです。通常は出産後に廃棄されてしまうこの血液には、実は体のさまざまな細胞のもとになる「幹細胞」が豊富に含まれており、医療の世界で非常に大きな価値を持っています。一生に一度、出産時にしか採取できない貴重な血液だからこそ、その可能性に注目が集まっているのです。
さい帯血に含まれる「幹細胞」の働き
さい帯血がなぜこれほどまでに価値を持つのか、その答えは「幹細胞(かんさいぼう)」にあります。幹細胞とは、私たちの体を作るさまざまな種類の細胞に変化する能力(分化能)と、自分自身とまったく同じ能力を持った細胞をコピーして増える能力(自己複製能)をあわせ持つ、特別な細胞です。
さい帯血には、特に血液を作り出す源となる「造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)」が多く含まれています。造血幹細胞は、私たちの生命維持に欠かせない赤血球、白血球、血小板といった血液の成分を生み出す大もとの細胞です。この働きを利用することで、血液を作る機能に異常が起きてしまった病気の治療に役立てることができます。
また、骨髄から採取される幹細胞に比べて、さい帯血の幹細胞は非常に「若い」という特徴があります。そのため、増殖する能力が高く、移植の際に拒絶反応が起こるリスクが比較的低いことも大きなメリットとされています。
さい帯血を使った治療法と研究の現状
さい帯血に含まれる幹細胞は、すでに多くの命を救う治療に使われています。その一方で、未来の医療を切り拓く「再生医療」の分野でも大きな期待が寄せられており、世界中で研究が進められています。
現在、さい帯血がどのような治療に使われ、どのような可能性を秘めているのかを具体的に見ていきましょう。
| 分類 | 対象となる疾患の例 | 現状と目的 |
|---|---|---|
| 確立された治療(造血幹細胞移植) | 白血病、再生不良性貧血、先天性免疫不全症など | すでに公的医療として確立されている治療法です。抗がん剤治療や放射線治療によって正常な血液が作れなくなった患者さんに対し、さい帯血を移植することで、血液を作る能力の回復を目指します。 |
| 研究段階の治療(再生医療) | 脳性まひ、低酸素性虚血性脳症、脊髄損傷、自閉症スペクトラムなど | 幹細胞が持つ組織の修復能力などを利用した治療法として、世界中で臨床研究が進められています。ただし、現時点では研究段階であり、有効性や安全性は確立されていません。将来的な応用に期待が寄せられています。 |
このように、さい帯血は白血病などの血液疾患に対する「造血幹細胞移植」という確立された治療法があるだけでなく、再生医療の分野でも大きなポテンシャルを秘めています。だからこそ、出産という限られたタイミングでしか得られないさい帯血を「保管」するかどうか、多くのご家庭で検討されるようになっているのです。
本題「さい帯血保管」は本当に必要?メリットとデメリットを徹底比較
出産を控えたご家庭にとって、「さい帯血保管」は大きな関心事の一つではないでしょうか。わが子の将来のために何かできることはないか、と考えるのは自然なことです。しかし、インターネットやSNSでは「絶対に保管すべき」「いや、必要ない」といった様々な意見が飛び交い、一体どちらを信じれば良いのか迷ってしまいますよね。
さい帯血保管は、決して安い費用ではありません。だからこそ、その価値を正しく理解し、ご家庭の状況や価値観に照らし合わせて慎重に判断することが大切です。ここでは、さい帯血を保管するメリットとデメリットを多角的に比較・解説し、後悔しないための選択をサポートします。
さい帯血を保管する3つのメリット
まずは、さい帯血を保管することで得られるメリットについて見ていきましょう。主に「将来の備え」「家族への貢献」「未来の医療への期待」という3つの側面があります。
将来の病気への備えになる
さい帯血保管の最大のメリットは、白血病や再生不良性貧血といった血液の病気など、将来もしもの病気にかかった際の治療の選択肢になることです。さい帯血に含まれる「造血幹細胞」は、正常な血液を作れなくなった患者さんの体を回復させる移植治療に使われます。
通常、移植には白血球の型(HLA)が一致するドナーを探す必要がありますが、ドナーはすぐに見つかるとは限りません。しかし、本人のさい帯血を保管しておけば、拒絶反応の心配がなく、ドナーを探す時間も必要ありません。これは、治療において大きなアドバンテージとなり得ます。
本人だけでなく家族も使える可能性がある
保管したさい帯血は、赤ちゃん本人だけでなく、白血球の型(HLA)が一致すれば兄弟姉妹の治療にも使える可能性があります。兄弟姉妹間でHLAが完全に一致する確率は4分の1とされていますが、血縁者であるため、他人からドナーを探すよりも適合する可能性は高くなります。
家族に血液疾患の既往歴がある場合など、将来のリスクに備えたいと考えるご家庭にとって、この点は大きな安心材料となるでしょう。
再生医療の発展による将来性
さい帯血に含まれる幹細胞は、血液の病気だけでなく、様々な組織や臓器の修復・再生に役立つ可能性を秘めています。現在、脳性麻痺や低酸素性虚血性脳症、自閉症スペクトラム障害といった、これまで有効な治療法が少なかった病気に対する再生医療・細胞治療の研究が世界中で進められています。
これらの治療はまだ研究段階のものが多いですが、将来的に医療技術がさらに発展すれば、さい帯血の活用範囲が広がる可能性があります。未来の医療への「お守り」として、その可能性に期待して保管するという考え方です。
知っておくべきさい帯血保管の4つのデメリット
多くのメリットがある一方で、さい帯血保管には無視できないデメリットや注意点も存在します。費用面や実用性の観点から、冷静に判断する必要があります。
高額な保管費用がかかる
民間バンクでさい帯血を私的に保管する場合、決して安くない費用がかかります。一般的に、申し込みや採取、検査などにかかる初期費用として約20万円~30万円、さらに保管を続けるための年間費用として1万円~2万円程度(または10年分などの一括払い)が必要です。
これは家計にとって大きな負担となり得るため、出産や育児にかかる他の費用とのバランスを考えて慎重に検討する必要があります。
実際に使用する確率は低い
さい帯血が将来の治療で実際に使われる確率は、現時点では非常に低いのが実情です。あるデータによれば、本人のために使われる確率は0.05%~0.0005%(2,000人に1人~20万人に1人)程度とも言われています。
もちろん、その「万が一」に備えるのがさい帯血保管の目的ですが、この確率をどう捉えるかは個人の価値観によって大きく変わるでしょう。「お守り」として高額な費用を払い続けるかどうか、冷静な判断が求められます。
保管しても必ず使えるとは限らない
費用を払って保管手続きをしても、さい帯血が必ずしも治療に使えるわけではない、という点も理解しておく必要があります。理由はいくつかあります。
- 採取量の不足:出産時の状況によっては、移植に必要な細胞数を満たす量のさい帯血が採取できない場合があります。
- 品質の問題:採取・輸送の過程で細菌汚染などが起こり、保管基準を満たせないケースもあります。
- 遺伝性疾患:もし赤ちゃんが先天的な遺伝子異常による病気を発症した場合、その原因となる遺伝子異常がさい帯血にも含まれているため、本人の治療には使えません。
契約したにもかかわらず、最終的に保管に至らなかったり、保管できても将来使えなかったりする可能性があることは、事前に必ず知っておくべき重要なポイントです。
採取できる医療機関が限られる
民間バンクでのさい帯血保管は、どの産院でも対応しているわけではありません。さい帯血の採取は、民間バンクと提携している医療機関(産院)でのみ可能です。
もし、さい帯血保管を強く希望する場合は、出産する産院を選ぶ段階で、希望する民間バンクの提携医療機関であるかどうかを確認する必要があります。里帰り出産などを検討している場合は特に注意が必要です。
「さい帯血保管は必要ない」という意見も
これまで見てきたデメリット、特に「高額な費用」と「使用確率の低さ」を理由に、「さい帯血保管は必要ない」と判断するご家庭も少なくありません。
「確率の低い未来への備えに数十万円をかけるよりも、その費用を現在の育児や教育、家族の思い出作りに使いたい」という考え方は、非常に合理的です。また、万が一白血病などの病気になったとしても、まずは公的さい帯血バンクや骨髄バンクのドナーを探すのが標準的な治療であり、必ずしも自己のさい帯血が必要になるわけではありません。
さい帯血保管は、あくまで「治療の選択肢を一つ増やす」ためのものであり、しなければならないものではないのです。最終的には、各ご家庭の経済状況や病気に対する考え方、将来への価値観など、総合的に考慮して決断することが何よりも重要です。
【どっちを選ぶ?】公的さい帯血バンクと民間さい帯血バンクの違い
さい帯血を保管する方法には、大きく分けて「公的さい帯血バンク」と「民間さい帯血バンク」の2種類が存在します。この二つは目的や仕組み、費用などが大きく異なるため、それぞれの特徴を正しく理解し、ご自身の家庭の方針に合った選択をすることが重要です。ここでは、両者の違いを詳しく解説していきます。
社会貢献としての「公的バンク」への寄付
公的さい帯血バンクは、日本赤十字社などが国からの許可を得て運営している非営利事業です。ここでのさい帯血の提供は「寄付」という形になります。寄付されたさい帯血は、白血病などの血液疾患で移植を必要としている不特定多数の患者さんのために使われます。
提供にあたって費用は一切かかりません。誰かの命を救うことができるかもしれない、尊い社会貢献活動の一つです。ただし、寄付であるため、提供したさい帯血を将来自分や家族のために使うことは原則としてできません。また、提供できるのは公的さい帯血バンクと提携している産科施設に限られ、すべてのさい帯血が国の定める厳しい基準を満たして保管されるわけではない点も知っておきましょう。
家族のための「民間バンク」での私的保管
民間さい帯血バンクは、株式会社などが運営するサービスです。こちらは寄付ではなく、契約者自身のさい帯血を「私的保管」するものです。その目的は、出産した赤ちゃん本人やその家族が、将来病気になった際の治療に備えることです。
保管契約を結ぶことで、将来さい帯血が必要になった際に、優先的に自分たちのために使用することができます。再生医療の分野は日々進歩しており、将来的に治療可能な病気が増えることへの期待も含まれます。一方で、保管には初期費用と年間の保管料という高額な費用が発生します。また、実際に使用する確率は極めて低いという事実も理解した上で、慎重に検討する必要があります。
公的バンクと民間バンクの比較表
公的バンクと民間バンクの違いをより分かりやすく理解するために、以下の表にまとめました。どちらを選ぶか判断する際の参考にしてください。
| 項目 | 公的さい帯血バンク | 民間さい帯血バンク |
|---|---|---|
| 目的 | 第三者の治療(社会貢献) | 本人・家族の将来への備え |
| さい帯血の扱い | 寄付 | 私的保管 |
| 所有権 | バンク(提供後は手放す) | 契約者(本人・家族) |
| 使用対象者 | 不特定多数の患者 | 本人または家族(兄弟姉妹など) |
| 費用 | 無料 | 有料(初期費用+保管料) |
| 運営主体 | 公的機関(日本赤十字社など) | 株式会社 |
| 採取できる場所 | 提携している一部の産科施設 | 全国の多くの産科施設(提携状況による) |
このように、公的バンクと民間バンクは全く異なる役割を持っています。どちらが良い・悪いということではなく、さい帯血を「誰かのために役立てたい」と考えるか、「自分たちの家族のお守りにしたい」と考えるか、その価値観によって選択が変わってきます。出産前にパートナーとしっかりと話し合い、ご家庭にとって最善の選択をしてください。
さい帯血保管の費用と手続きの詳しい流れ
将来への備えとして魅力的なさい帯血保管ですが、実際に利用するとなると、どのくらいの費用がかかり、どのような手続きが必要なのでしょうか。ここでは、民間さい帯血バンクを利用する場合の費用内訳と、申し込みから保管開始までの具体的なステップを詳しく解説します。契約前にしっかりと流れを把握し、計画的に準備を進めましょう。
さい帯血保管にかかる費用の内訳
さい帯血の私的保管には、初期費用と保管費用を合わせて、総額で数十万円単位の費用が必要になるのが一般的です。費用体系は各民間バンクによって異なるため、複数のバンクから資料を取り寄せて比較検討することが大切です。以下に、費用の主な内訳と目安をまとめました。
| 費用項目 | 費用の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 約20万円~25万円 | 申込金、さい帯血採取キット費用、輸送費、検査・分離・調製技術料などが含まれます。 |
| 保管費用 | 年間 約1万円~2万円 (10年分一括払いなどプランあり) | 保管年数に応じて支払います。10年や20年などの長期契約や、一括払いで割引が適用されるプランを用意しているバンクが多いです。 |
| 総額(例:10年保管) | 約25万円~35万円 | あくまで目安です。分割払いに対応しているバンクもありますが、契約前に総額費用を必ず確認することが重要です。 |
※上記の金額はあくまで一般的な目安です。最新かつ正確な料金については、各さい帯血バンクの公式サイトや資料で必ずご確認ください。代表的な民間バンクには「ステムセル研究所」や「ときわメディックス」などがあります。
申し込みから採取・保管までの5ステップ
さい帯血保管の手続きは、妊娠中から始まります。出産間近になって慌てないよう、余裕を持って準備を進めることが大切です。一般的な流れを5つのステップで見ていきましょう。
ステップ1:資料請求と比較検討
まずは、複数の民間さい帯血バンクから資料を取り寄せましょう。多くの場合、妊娠20週前後から検討を始める方が多いようです。各バンクのサービス内容、実績、サポート体制、そして費用体系をじっくり比較し、ご家庭の方針に合ったバンクを選びます。申込期限はバンクや産院によって異なりますが、妊娠34週頃までとしているところが多いです。早めに情報収集を始めることをおすすめします。
ステップ2:申し込みと契約
保管を依頼するバンクが決まったら、ウェブサイトや郵送で申し込み手続きを行います。申込書や契約書、質問票などに必要事項を記入・提出します。契約内容を隅々まで確認し、不明な点があれば事前に問い合わせて解消しておきましょう。契約が完了すると、さい帯血を採取するための専用キットが自宅に送られてきます。
ステップ3:採取キットの受け取りと準備
契約後に送られてくる「さい帯血採取キット」は、出産時に病院へ持参する重要なものです。出産予定の産院がさい帯血の採取に対応しているか事前に確認し、採取を依頼しておく必要があります。そして、出産時にはこの採取キットを絶対に忘れないように、入院バッグなどに入れて準備しておきましょう。
ステップ4:出産時のさい帯血採取
出産後、へその緒(さい帯)が切断された後、胎盤側に残ったさい帯から医師または助産師がさい帯血を採取します。採取作業は通常5分程度で完了し、お母さんや赤ちゃんに痛みや危険が及ぶことは一切ありません。採取したさい帯血は、専用キット内の血液バッグに無菌状態で保管されます。
ステップ5:搬送・検査・保管開始
採取されたさい帯血は、バンクが提携する専門の搬送業者が産院から速やかに回収し、保管施設へと運びます。施設到着後、細胞の数や生存率、ウイルスや細菌の有無など、国の定めた基準よりも厳しい自社基準で検査が行われます。この厳格な検査をクリアしたさい帯血のみが、マイナス196℃の液体窒素タンク内で、半永久的に品質を保ったまま長期保管されることになります。後日、バンクから保管証明書が発行され、一連の手続きは完了です。
出産前に解消したい「さい帯」に関するQ&A
「さい帯血保管はしたほうがいい?」という大きな決断の前に、そもそも「さい帯(へその緒)」について、多くの妊婦さんやご家族が素朴な疑問や不安を抱えています。ここでは、出産前にスッキリ解消しておきたい「さい帯」に関するよくある質問に、Q&A形式で分かりやすくお答えします。
さい帯は誰がいつ切るの?
さい帯は、出産後、赤ちゃんの呼吸が落ち着いてから切るのが一般的です。切る役割を担うのは、基本的には医師や助産師などの医療スタッフです。
しかし、最近では希望すればパパ(パートナー)がさい帯を切ることができる「立ち会いカット」を実施している産院も増えています。赤ちゃんがママから独立する最初のステップに立ち会える、感動的な体験として人気があります。ご希望の場合は、事前にかかりつけの産院で対応可能かどうか、また、どのような流れになるのかを確認しておきましょう。
また、切るタイミングについても、「遅延臍帯クランプ(Delayed Cord Clamping, DCC)」という考え方が注目されています。これは、さい帯の拍動が自然に止まるのを待ってから(通常は生後1〜3分後)、さい帯をクランプ(鉗子で挟むこと)して切る方法です。赤ちゃんに多くの血液が移行し、鉄分不足による貧血のリスクを低減するなどのメリットがあるとされています。この方法についても産院の方針によりますので、関心がある方は健診の際に相談してみることをおすすめします。
さい帯を切るとき痛みはある?
多くの方が心配される点ですが、結論から言うと、さい帯を切る際に赤ちゃんやママが痛みを感じることはありません。
さい帯には、痛みを感じるための神経が通っていません。そのため、赤ちゃんにとっては髪の毛や爪を切られるのと同じで、痛みを感じることはないのです。同様に、ママ側もさい帯が切られることによる直接的な痛みはありません。さい帯は胎盤につながっていますが、出産後に胎盤が子宮から剥がれ落ちる際も、さい帯切断による痛みとは異なります。安心してその瞬間を見守ってください。
さい帯が赤ちゃんの首に巻きついていたら危険?
妊婦健診のエコー検査で「赤ちゃんにへその緒が巻きついていますね」と言われると、とても心配になりますよね。この状態を「さい帯巻絡(さいたいけんらく)」と言います。
しかし、過度に心配する必要はありません。実は、さい帯巻絡は全分娩の約20〜30%にみられる、比較的よくあることなのです。お腹の中で赤ちゃんは活発に動くため、さい帯が体に巻き付いたり、自然にほどけたりを繰り返しています。多くの場合、ゆるく巻き付いているだけで血流が妨げられることはなく、お産の経過に影響はありません。
分娩時には、医師や助産師が赤ちゃんの心拍数をモニターで常に確認し、状態を慎重に見守っています。万が一、強く巻き付いていて赤ちゃんの心拍に変化が見られるような場合には、迅速かつ適切に対処してくれますので、安心して医療スタッフに任せましょう。
切った後の「へその緒」はどうなるの?
出産後、さい帯は赤ちゃんのおへそから数cmのところで切られ、プラスチック製のクリップで留められます。この赤ちゃん側に残った部分を「臍帯断端(さいたいだんたん)」と呼びます。
この臍帯断端は、生後数日間かけて水分が抜けて乾燥し、黒っぽくミイラ化していきます。そして、一般的には生後1〜2週間ほどで自然にポロっと取れます。取れるまでの間は、産院の指示に従ってケアをします。以前は消毒することが一般的でしたが、現在はジュクジュクしていなければ自然乾燥で良いとする指導も増えています。大切なのは、おむつで蒸れないようにし、清潔で乾燥した状態を保つことです。
へその緒が取れた後も、しばらくはおへそがジクジクすることがあります。出血が続いたり、赤みや腫れ、嫌な臭いがしたりする場合は、細菌感染の可能性もあるため、小児科や産院に相談してください。
さい帯の保管サービスもあるの?
「さい帯」の保管には、目的によっていくつかの種類があります。混同しないように整理しておきましょう。
さい帯血の保管
最もよく知られているのが、さい帯の中に流れている血液「さい帯血」を保管するサービスです。さい帯血には「幹細胞」という、体のさまざまな細胞の元になる貴重な細胞が豊富に含まれており、白血病などの血液疾患の治療や、再生医療への応用が期待されています。これには、第三者のために無償で寄付する「公的バンク」と、自分や家族のために有料で保管する「民間バンク」があります。
さい帯(組織)の保管
さい帯血だけでなく、さい帯そのもの(組織)を凍結保存するサービスもあります。さい帯の組織には、さい帯血に含まれる造血幹細胞とはまた別の「間葉系幹細胞」などが含まれており、骨や軟骨、神経などの再生医療への応用が研究されています。多くは民間さい帯血バンクが、さい帯血保管のオプションとして提供しています。ただし、さい帯組織を用いた治療は、さい帯血以上に研究開発段階’mark>であり、将来の可能性に期待して保管するものと言えます。
記念品としての「へその緒」保管
医療目的とは全く別に、日本には古くから、乾燥して取れたへその緒(臍帯断端)を記念品として保管する文化があります。これは、赤ちゃんがママと繋がっていた「命の証」として大切にするためです。多くの産院では、へその緒が取れると、防湿・防虫効果のある桐の箱に入れてプレゼントしてくれます。これは医療サービスではなく、あくまで記念品としての保管です。
まとめ
さい帯は、妊娠中に赤ちゃんとママをつなぐ大切な命綱であり、その中に含まれるさい帯血は、再生医療の分野で注目される貴重な幹細胞の宝庫です。この記事では、さい帯血保管の必要性について、メリット・デメリットの両面から詳しく解説しました。
結論として、さい帯血保管は将来の病気への備えとなる一方で、高額な費用や使用確率の低さといった側面もあり、すべてのご家庭にとって一概に必要とは言えません。保管を検討する際は、広く社会に貢献する「公的さい帯血バンク」への寄付と、ご自身の家族のために備える「民間さい帯血バンク」での私的保管、それぞれの目的と特徴を正しく理解することが重要です。出産という一度きりの機会を後悔しないために、ご家族で十分に話し合い、費用や将来性などを総合的に考慮した上で、ご家庭にとって最善の選択をしてください。
